「あなたの得意料理はなんですか」

2013年２月。
「『得意料理は何ですか』と聞かれたら……」
というテーマで、
アクションクッキングを開催しました。
アクションクッキングは、
今年で7年目に入りました。
アクションクッキングとは、
食コーチングの食事論を実践する場
と位置づけています。

「料理の作り方に終始するのではなく、
どんなときに、どんな人と、
どんな話題を楽しむかなど、
人とのコミュニケーションを楽しむという、
本来の目的に沿った食シーンを
演出することを実践するサロン」
――それがアクションクッキングです。
今回は、テーマにちなんで、
みなさんへの、こんな質問からスタートしました。

①自己紹介、あるいは近況報告
②あなたの「得意料理」は何ですか。
③そのお料理を作る頻度
④いつごろから作っているか。
⑤どなたのために作ることが多いか。
⑥作り方に特徴があれば。
⑦「得意料理」であると自負したきっかけは？……などなど。
今回、このテーマにしたのには理由があります。
１．栄養士以外の方から
　「栄養士の料理は
健康にはよさそうだけれどまずい」
　と言われることが少なくない。

２．栄養士のほうも、
「得意料理は何ですか」と聞かれたときの
　答えを準備していないケースが少なくない。
「1」に関しては、根拠のない言われ方ですが、
「栄養素で料理の説明をすればするほど
理屈っぽくなって、
料理のおいしさが後退する」
という指摘を聞いたことがあります。
そういえば、何年か前、
知人の栄養士さんは、
料理教室の生徒さんから
「『栄養士さんはいつも同じ話をする。
　この料理にはビタミンＣが多いとか、
　カロテンがたっぷりとか。
　もういいよ。前聞いたから』
　と言われてはっとした」と。
同様に、「得意料理は何ですか」と聞かれたとき、
「野菜たっぷりの鍋物です」
「塩分が少ない茶碗蒸しです」
などと答えていれば、
すかさず「栄養士さんらしいね……」
といわれるでしょうし、
相手をちょっと
シラケさせることにもなるでしょう。
糖尿病の人のための料理教室や
減塩のための料理教室を開くことが多い
あるベテラン栄養士さんは、
「フツーのお料理の
　講師をすることになったけれど、
　経験がないから心配」と、こっそり悩みを
　打ち明けてくださったことがあります。
また、別の栄養士さんは、
こんな話をしてくださいました。
人から「お得意料理はなんですか」
と聞かれたとき、
答えに困って沈黙してしまう。
そもそも、自分の得意料理について
考えたことがない、と。
近年、栄養士養成校では、
≪臨床≫偏重傾向が強まり、
調理実習の時間を削減するケースがある、
という話を、
現場の先生から聞いたことがあります。
そうした影響は今後、
ますます顕著になってくることでしょう。
得意料理のない栄養士が、
いまの何倍も増えるかもしれません。
女子栄養大学創設者の香川綾先生は、
「机上の栄養学になってははだめ。
調理して実践しないと！」
とし、実践栄養学科を創ったということを、
私たち卒業生は学生時代から聞かされています。
栄養士が「栄養素」だけを話し、
栄養の話だけをする人となり、
調理することを拒んだとしたら、
いま、いろいろのところで言われている
「人間栄養学」とは
ますますかけ離れてしまうのではないだろうか。
外食への依存度がどんなに高くなっても、
いえ、高くなればなるほど、
調理技術は意味を持つことでしょう。
ハンバーグを作ったことのない人には、
ハンバーグの固さ、焼き加減の適性、
食卓での役割などはわからないでしょう。
でも、ハンバーグが主菜となったとしても、
人間の食シーンにおいては、
ハンバーグは主役とはなりません。
いうまでもなく、そこに集まった人こそが主役。
食コーチングによる「アクションクッキング」は、
主役と主菜、副菜たちが、
楽しい食シーンを展開できるように、
プロデュース力を磨く場として
今後も続けていきたいと思っています。